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「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んだ
誰だって、読みたい本はたくさんある。しかし、何やからが忙しくてなかなか読みこなせない。それが日常というものだ。それでも、他の予定をのけてでも発売されるその日に読みたくなる本もまれにある。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は、きっとそんな部類に入る。

十時過ぎに宅配で届いた本を鞄をに入れてカフェに向う。椅子に腰を下ろすのと同時にしおり糸を向こう側に放り、表紙を広げる。その瞬間からヘッドフォンをつけなくてもあたりはしんとする。

ふと気づくと、テーブルのコーヒーはとうの昔に冷めて艶やかさを失っており、右手よりも左手の方がページの厚みが薄くなっている。そして、あちら丶 丶 丶側からこちら丶 丶 丶側に連れ戻したのは、携帯電話の震えだったことに気づく。

結局、その電話をきっかけに、あれほど優先したはずの本を横において、女性と豊かな夜を過ごした。なぜそうなったかは複雑で上手く説明できない。おかげで少し眠いけれど、読み残した続きの文章は豊饒になったように感じた。

何かを信じることができたあの頃に戻りたいと思うけれど、本当は今でも自分の一部はあの頃に取り残されているのかも知れない。


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